昨日、D’Angeloがこの世を去った。
その知らせを目にした瞬間、胸の奥にぽっかりと穴があいたような感覚に包まれた。そろそろ新しいアルバムが出るかもしれない、そんな期待を抱いていた矢先の訃報だったからだ。
D’Angeloは、1990年代から2000年代にかけてR&Bの地平を切り拓いた稀有なアーティストだった。彼の音楽は、ソウルの伝統に根ざしながらも、ヒップホップやジャズ、ファンク、さらにはゴスペルの魂までも溶け合わせていた。
それは単なるジャンルの融合ではなく、「人間の声」と「グルーヴ」という最も根源的な要素を再発見する試みだったのだと思う。
なかでも、私が愛してやまないのが「Really Love」。
D’Angelo and The Vanguard名義で2014年に発表されたアルバム『Black Messiah』に収録されたこの曲は、彼のキャリアの集大成ともいえる名作だ。スペイン語のギターが鳴り響くイントロから始まり、やがて彼の声が静かに流れ込む。
“I’m in really love with you…”
その一言に込められた温度のようなものが、聴くたびに胸の奥を締めつける。この曲には、D’Angeloという人のすべてが詰まっている。愛の美しさと痛み。欲望と祈り。肉体と魂のせめぎ合い。
彼の歌声は、完璧に磨かれたボーカルではない。むしろ、息づかいや震え、かすれといった“生々しさ”が宿っている。その不完全さこそが、人間らしさの象徴であり、彼が探し求めていた「リアル」だったのだろう。
The Vanguardの演奏もまた圧倒的だ。
Rafael SaadiqやQuestloveらによるグルーヴは、リズムの隙間に呼吸を感じさせ、まるでジャズのセッションのような有機的なうねりを生み出している。
その音の揺らぎの中で、D’Angeloの声は時に溶け、時に突き抜け、そして静かに消えていく。まるで愛の儚さそのものを音にしたかのように。
D’Angeloの死を悼む声は、世界中に広がっている。
だが、彼の音楽は決して終わらない。Frank Ocean、Anderson .Paak、H.E.R.、The Weeknd──いま第一線で活躍するアーティストたちの音の奥底には、確かにD’Angeloの魂が息づいている。彼が紡いだ旋律は、世代を超えて受け継がれ、これからも多くの夜に灯をともすだろう。
今夜は、部屋の灯りを落として「Really Love」を聴こうと思う。D’Angeloが残してくれた、あの温もりと祈りにもう一度触れるために。
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